赤外線調査ガイドラインとは|ガイドラインを用いた調査方法も解説
外壁調査において、建物のタイルなどが浮いていないかを確認するために実施される調査方法が赤外線調査です。従来は打診棒等によって調査する打診調査法が一般的でしたが、安全・コストの観点から特定建築物定期調査に於ける外壁全面打診等調査では赤外線調査の方が主流となってきています。赤外線調査にはガイドラインがあり、調査の品質と信頼性、安全性を示す役割を担っています。
当ページでは赤外線調査ガイドラインの詳細とそれを用いた調査方法について解説します。これから外壁調査の実施を検討している方はぜひ参考にしてください。
赤外線調査とは
赤外線調査はサーモグラフィを使用して外壁を撮影することにより、外壁に浮いている部分があるかを調査する方法です。建物外壁仕上げ面が太陽の日射や気温の変動等の気象変化を受けると、その面の断面形状と材料の比熱及び熱伝導率の熱特性の違いにより表面温度に差が生じます。
表面温度の差を赤外線装置法によって調査することで、建物の外壁タイルまたはモルタル仕上げ等の浮き部と健全部の熱伝導の相違によって生じる表面の温度差を赤外線映像装置によって測定し、タイルまたはモルタル仕上げ等の浮きの有無や程度を調査します。従来は打診棒などで壁面を打診して調査する打診調査が一般的でしたが、赤外線調査なら打診調査と比べてコスト・安全面においてメリットが大きいこともあり主流となってきています。
赤外線調査が注目される背景
赤外線調査が注目される背景として、建築基準法第12条の改正とコスト・安全・期間の4つの要因があります。建築基準法第12条は平成20年に改正されました。改正内容は、平成20年4月1日から外壁改修工事後もしくは築10年以上の特殊建築物の外壁の『定期点検と報告』が義務付けられたことです。これにより外壁調査の需要はさらに高まり、効率よく調査を進めなくてはいけなくなったことから赤外線調査が注目されるようになりました。
また、赤外線調査は打診調査に比べて費用が抑えられるだけでなく、高所に上がる必要が無いのでコスト・安全・期間の面で受けられるメリットが大きいです。コストを抑えて、安全かつ短期間で調査が完了させられれば、依頼主様にとってもメリットはとても大きい調査方法だと言えます。
赤外線調査が抱える課題
赤外線調査は外壁の健常部と異常部に生じる温度差を赤外線サーモグラフィカメラで検知・記録する作業が基本です。そのため、健常部と異常部に適切な温度差が生じる条件を整えないと適切な調査を行うことができません。適切な調査を実施するためには、天候、立地、建築物形状等、環境条件などの知識を持ち、実績が豊富な専門スタッフがしっかり準備した上で行う事が重要になります。
赤外線調査の特徴
赤外線調査をする際に活用する赤外線装置法には以下の5つの特徴があります。
- 非接触のため足場やゴンドラ等の仮設を必要としない
- 地上から調査を行う事ができる為安全である
- 大壁面を小人数で比較的短時間に測定できるため効率が良い
- 診断結果を熱画像として直接可視化した形で記録し、再生ができる
- 熱画像を解析することにより精度の高い診断ができる
赤外線調査は足場を使わずに手軽にできるだけでなく、打診棒や目視のように人の感覚に頼っていないにもかかわらず精度が高い特徴があります。調査に使う時間、人材が最小限で済むのでコストも低く済む点も重要な特徴と言えるでしょう。
赤外線装置法の適用限界
赤外線調査は機械に頼って調査をするので、機械の使い方次第で調査内容にムラが出る可能性があります。そのため、赤外線装置法を活用する際は調査レベルを設定します。調査レベルを設定することで、調査精度の安定を実現し、調査スピードと信頼性を向上させることが可能となります。
【赤外線調査における調査レベル】
- 季節、天候、時刻及び気温等自然現象により影響を受ける。
- 雨天または曇天で日中の気温較差が5℃未満、風速5m/sec以上の場合は測定できない。
- 壁面の方位、壁面の赤外線装置の距離、仕上げ材の材質・形状・色調及び下地材の影響を受ける。
- 壁面と赤外線装置法カメラの間に樹木や高い塀等障害物があると測定できない。
- 建物室内の暖冷房機器または屋外機の発熱等の影響を受ける。<
- 赤外線装置の種類や画像処理方法により診断結果に差異を生ずることがある。
- 軒裏、出隅、入隅、ベランダや庇等の突起物のある場合、笠木、雨樋や柱の日陰となる部分、窓枠近傍及び凹凸の甚だしい建物では測定できない。
- 測定角度(水平方向、垂直方向とも)30°以内が望ましい。ただし、やむを得ない場合は45°以内まで許容できる。
資格制度の活用
【TakaoプランニングではITCが発行している『ITCレベル1』という資格を保有】
ITCの資格内容は独自の講習ではなく、ISO18436-7に準じた他国の講習機関とトレーサブルな内容になっています。この資格を有することで、赤外線技術者が質の高いデータを取得、解析ができるだけでなく、赤外線カメラを与えられたときに、正しく測定・解析ができる知識が身について、理論を伴った測定を行えるようになります。
作業フローの改善
作業フローを明確にすることで、実際の調査と報告書の作成が上手くトレースできるようにしています。ガイドラインが示す、作業フローは以下の通りです。
【作業フロー】
- 事前調査(現在ではGoogleストリートビュー等を使用)、ヒアリング
- 撮影計画書の作成および調査業務の契約
- 赤外線カメラによる現地での撮影
- パールハンマーによる部分打診確認
- 赤外線画像の解析及び診断。浮き・はく離範囲の抽出
- 調査結果図の図面化
- 調査結果の報告
撮影した赤外線画像の撮影位置(撮影距離、角度)、撮影範囲、撮影日時等を記録・報告することで調査結果報告書より調査結果の適否をトレースできる作業フローとなっています。
必要書類の様式整備
依頼者様へ調査報告をする際に、報告内容が正確に伝わるように努めます。正確に内容をお伝えるために、ガイドラインでは『必要書類の様式を整備』を実施することで、分かりやすく成果を提供できるようしています。また様式を整備することで、調査の業務に統一性が生まれ、効率的な調査になるように促しています。
赤外線調査ガイドラインを用いた調査方法
赤外線調査ガイドラインを用いて調査を行う際は、以下のフローに沿って進めます。
- 事前調査、企画
- 現地調査
- 解析・診断
- 調査結果報告
以上のフローの詳細を以下で解説していきますが、内容をスムーズに理解しやすくなるように見出し冒頭にある参照画像に目を通していただいてから解説内容をご確認ください。
事前調査、企画
事前調査、企画では調査に着手する前に建物の図面、周辺状況などから調査条件を整理・検討し、赤外線調査の適用の適否を判断(地図アプリを利用)したうえで、見積書を作成します。それぞれ具体的に以下の内容を実施します。
【事前調査】
チェックリストに基づいて調査条件を把握します。チェックする内容は以下の通りです。
- 赤外線調査の適用可否
- 調査可能な範囲
- 撮影場所の立ち入り許可等の確認
- 撮影時期、対象面の撮影時刻
- 建築物の構造・形状および外壁の仕上げ材の確認
- 赤外線装置の設置位置の確認
【企画】
事前調査にて赤外線調査が可能と判断された場合は以下の項目を記載して場合によっては計画書を作成します。
- 建物の概要
- 対象面の撮影場所と撮影時刻(日射の状況の確認)
- 調査時期と調査工程
- 調査方法の詳細
- 使用する機材の詳細
- 撮影技術者の氏名
- 画像解析・診断技術者の氏名
赤外線調査実施者は、調査時に想定される天候、環境温度、風速、周辺建築物等からの放射熱の影響、調査前の降雨による外壁表面の状態、その他の注意事項を踏まえ、事前に調査計画を立案し、調査計画書を作成する。また、建築物の形状や調査当日の環境条件等によっては、撮影の時間帯や赤外線装置の位置や角度を変えて撮影することが必要になることもあるため、適切に対応できるように検討する。
現地調査
現地調査は撮影に対する事前準備から撮影と部分打診が完了するまでの工程を指します。現地調査で行う工程の詳細は以下の通りです。
【事前準備】
- 撮影前日の撮影可否の判断
天気予報などから当日の情報を収集して、撮影実施が可能かどうか判断します。収集する情報は『天気内容・予想日較差・予想風速』です。
- 撮影位置の確認
計画書で記載した撮影位置における対象面までの撮影距離・角度を確認します。
- 撮影時の温度条件(日照)の確認
【撮影】
下記を基準とした撮影方法に基づいて撮影を実施します。
- 撮影解像度が 25 mm / pix 以下となるように、撮影距離、赤外線カメラの視野角(対物レンズ)を選定
- 赤外線画像中に変温部を確認した場合、赤外線画像および可視画像を保存
- 保存した画像の面、位置、階数などを記録
- 変温部にひび割れがあるかどうかを、肉眼または双眼鏡を使って目視で確認して記録
- 以下で示すガイドライン指定の性能を持った赤外線カメラを使用して撮影。
『温度分解能が 0.1℃以下』『対象壁面で 25 mm /pix の解像度』『画像解析時に温度表示が調整可能なフォーマットで画像保存機能を有する』『画像の温度表示などを調整する機能を有するソフトがある』
【部分打診】
赤外線調査結果の信頼性を検証するために、赤外線画像より浮きと判断された箇所を手の届く範囲においてパールハンマー等で打診して外壁の浮き状況を作業員の手で実際に確認します。
解析・診断
現地調査が完了後、記録した赤外線画像の解析・診断を実施します。
調査対象の建築物の立地条件や外壁の仕上げ材の種類、画像を撮影した時の環境条件等についてあらかじめ情報を整理し、反射等の外乱の影響を取り除きながら分析を行い、浮きを判定していきます。
尚、赤外線カメラ撮影者と解析・診断者は必ず同一人物で行います。以下の手順に沿って判断していきます。
【画像解析・診断の手順】
- 赤外線画像の温度表示の最適化と変温部抽出
赤外線画像の温度表示を調節して、周囲と温度の異なる領域(変温部)を抽出します。
- 変温部の要因の判断
変温部と同位置の可視画像を比較して、変温の原因が白華現象、汚れ、仕上げ材の材質や色調の差、周辺物からの熱反射、部位の特徴、室内の冷暖房の影響等の要因でないことを確認します。
(この作業は現場でも行った上で再度行う) - 浮き・はく離箇所の特定と明示
『変温部の要因の判断』で除外される範囲などを考慮し、変温部の浮き・はく離箇所を特定し、赤外線画像の該当部分を囲んでいきます。
以上の手順で浮き・はく離箇所と思われる箇所を特定したら、調査結果報告書へ反映できるように情報をまとめます。
調査結果報告
解析・診断で明らかになった調査内容を、報告書にまとめて依頼者様へ報告します。報告書の作成において以下の項目を記載しています。
【調査報告書への記載する項目】
報告書の作成にあたっては、下記の事項を記入する。
- 建物概要
- 調査会社名、調査担当者名
- 調査部分、調査除外部分
- 調査実施日、調査時の天候
- 部分打診結果
- 浮き部の抽出図、熱画像
- 測定概況写真
ドローンによる外壁調査について
近年、ドローンを利用して赤外線調査を行う方法が注目されてきています。ドローンによる外壁調査では通常の赤外線調査に比べて以下のようなメリットがあります。
- 赤外線画像撮影の際、高層階の撮影に仰角がつかず水平で撮影が可能になり精度が上がる
- リアルタイムな映像で共有することができるので信用性があがる
- 地上から目視がし辛い高所等の箇所でも最適な距離での撮影が可能になる
また国土交通省より令和4年3月に定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドラインが告示されました。
国土交通省が定めている無人航空機による赤外線調査につきましては下記リンクをご参照頂ければと思います。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000161.html
まとめ
赤外線調査は従来まで行われていた打診調査と比べて、安全でコストも低く、短期間で調査が完了することから注目されています。天候によっては調査が実施できないなどの課題もありますが、全体的なコストを考えると積極的に利用していくべき調査方法と言えます。赤外線調査に関するガイドラインも策定されており、安定した品質の調査結果を依頼者様へ報告することができます。
もし、建物の外壁調査を赤外線調査で依頼したいとご検討されている方はぜひTakaoプランニングへご相談ください。Takaoプランニングはオフィスビル・集合住宅・病院・ホテル・学校など様々な建物の調査・診断をしてきた実績があります。その分ご依頼もたくさんいただけていることもあり、低コストでのサービス提供を可能にしています。またマンションの大規模修繕などに合わせて行う外壁調査など、少しでも費用を抑えて調査をしたいと考えている方はぜひ一度お問合せください。